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九州大学大学院博士後期課程 | 日本学術振興会特別研究員

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Kyushu University Institutional Repository

国立大学における研究センターの動向 —制度的位置 づけと運用に着目して—

金子, 研太

九州大学大学院博士後期課程 | 日本学術振興会特別研究員

http://hdl.handle.net/2324/1928657

出版情報:九州地区国立大学教育系・文系研究論文集. 1 (1), pp.No.6-, 2013-10. 九州地区国立大学間 の連携に係る企画委員会リポジトリ部会

バージョン:

権利関係:Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives

(2)

国立大学における研究センターの動向

制度的位置づけと運用に着目して

金   子   研   太

1.課題設定

本研究は、国立大学における研究センター、とりわけ部局等を超えて学際的な研究を進めるセン ターの動向を明らかにすることを目的とする。

近年、大学を取り巻く環境はますます競争的となり、大学組織は個性化や合理化が強く求められ るようになった。この中で行われた国立大学の法人化は、厳しさを増す環境への対応を各大学に委 ねるものとなった。法人化により拡大した裁量を用いて広く行われたのが、部局等を超えて学際的 研究を進める学内共同教育研究施設(以下「研究センター」)の新設であり、各大学の新たな取り組 みのプラットフォームとして注目を浴びている。

法人化以前においても、センターは学部・研究科が担うことができない学際的な研究や、特殊な 研究設備に対応するために編成される性質(文部省 1981)をもっており、「ベルト」などと呼ばれ る外郭部、周辺部として扱われてきた(阿曽沼 1995、大場・小貫 2007)。しかし、制度上は法令に 基づいて運営経費や定員が措置され、比較的安定した組織として運用されてきた。このため、海外 における「イニシアティブ」や「インスティチュート」と呼ばれる組織とは似て非なる組織であっ たと言える(山本 1998、小林 2005)。

法人化により、センターが法的に定義されなくなったことは、学内外の要請を踏まえた柔軟な組 織を編成できる可能性を広げることとなった。実際に従来と趣の異なるセンターの設置が進んでお り、センターは大学法人化の影響を最も大きく受けた部門のひとつであると言える。新たな編成原 理が導入されたことは、その運用や設置改廃にこれまでに生じていなかった新たな現象を持ち込む ことにつながっていると考えられ、その把握と検証が必要である。

しかしながら、法令にもとづかない取り組みが広がることにより組織の「標準型の喪失」(小林 2005: p.33)が生じ、センターに生じた変化を研究的に把握することを困難にしている。このため、

法人化後のセンターに関する研究は一部のセンターに考察対象を限定したり(田中 2009)、意識調 査に基づく考察(大場・小貫 2007)にとどまっており、分析枠組みの構築が課題となっている。

このため本研究では、この枠組みを構築する前段階の作業として、部局等を超えて学際的な研究

九州大学大学院博士後期課程/日本学術振興会特別研究員

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を進めるセンターがいかなる変化の途上にあるのかを明らかにすることとしたい。

2.研究センターの制度的位置づけ

研究施設(センター)は、1949年制定の国立学校設置法において学部附属の組織として位置づけ られた。同法では全学組織として附置研究所を置いており、大規模な研究プロジェクトは附置研究 所の形態をとった。これに対して研究施設は比較的小規模なものが想定されており、設置件数の増 加がみられたものの、1960年代中ごろまでの総数は100を下回っていた。

しかし、1970年代以降は一転して、附置研究所に 匹敵するような研究施設が新設されるようになる。

この背景には、文部省の方針転換に伴う日本学術会 議との関係の変化や、予算・制度の問題から附置研 究所の新設が鈍化したことが挙げられる。附置研究 所は教授会や部門を置く重厚な組織であり、設置改 廃に当たって国会審議を要したが、研究施設は柔軟 な人員配置が可能で、省令改正のみ設置することが 可能であったため、小回りの利きやすい研究施設の 設置数は飛躍的に拡大した(阿曽沼1995)。これを支 える制度的要件として、1965年の国立学校設置法改 正で全学組織としての研究施設の類型(全国共同利

用施設、学内共同教育研究施設)が整備され、1974年には時限付き施設の運用が開始された。この うち全国共同利用施設は、大学の学部等から独立した施設で、大学の枠を超え同分野の研究者の共 同利用に供するものであり、共同利用のための特別の予算措置が存在した。学内共同教育研究施設 は、大学の学部等から独立した施設として位置づけられる類型である。これに対して、特定学部の もとで特定目的の研究を行う研究施設本来の形態を学部等附属教育研究施設と称することとなっ た。このほかに、大学独自に予算や定員を確保した学内措置に基づくセンターが存在する。特に増 加したのが学内共同教育研究施設であり、1993年には学内共同教育研究施設が学部等附属教育研究 施設の設置数を上回り、研究施設のなかで主流の形態となった。このようにして「一講座では行な い得なくなった規模の特定の研究を行なうことを目的とするもの、将来は研究所たるべき準備段階 のもの等、種々の性格のものが見られ」る法人化前の研究施設の類型が整備されることとなる(文 部省 1981)。

こうした類型が大きく変化したのが国立大学法人化である。2001年に国立大学等の独立行政法人 化に関する調査検討会議が取りまとめた「新しい「国立大学法人」像について(最終報告)」では、

研究施設は法令に規定しないこととし、各大学の判断で随時設置改廃を行うことが妥当という基本 方針が示された。

3 89 209

320 404

482

0 100 200 300 400 500 600

1949 1964 1974 1984 1994 2002

図1 研究施設設置数の推移

(4)

これを受け、法人化に際して研究施設に関する法令上の規定が廃止され、全学管理分の人件費や 外部資金の間接経費等を原資として新たなセンターを立ち上げる事例が出現した(小島 2005)。各 大学の執行部もこれを好機と見ており、2006年当時の学長の88.2%が研究センターによる個性化の 推進を肯定している(大場・小貫2007)。なお、2008年からは、従来の全国共同利用施設に替わっ て、時限を設けて拠点認定を行う共同利用・共同研究拠点制度が開始された。

3.調査の方法

(1)統計資料による調査

文教協会発行の『全国大学一覧』を用いて法人化前後の設置数を集計した。このデータに基づい て法人化前後を比較する際には、法人化後に合併・新設が行われた大学(大阪、九州、神戸、香川、

佐賀、大分、福井、高知、宮崎、東京海洋、筑波技術)のデータを除外して集計した。

(2)アンケート調査

前章まで述べてきた現状をもとに、2012年1月にアンケート調査を実施した。調査項目は、広島 大学高等教育研究開発センターが2006年に実施した「大学の組織改革についての調査」を参照して 開発した。国立大学法人(全86法人)の学長に対して郵送し、33の回答を得た(回収率38%)。調査 票はインターネットにて公開している。図2に示すように、回答はすべての類型を網羅する形で得 られた。

(3)訪問調査

アンケート結果および組織改革の動向等を踏まえ、特徴的事例を有する大学に訪問調査を行っ た。A大学は2012年5月、B大学は2012年3月、C大学には2012年9月に訪問した。インタビュー 対象は、各大学で企画・研究支援等に従事し、実際にセンター設置改廃業務に関わっている大学職 員である。

7 3

3 1

6 3

12 5

10 4

11 4

4 1

16 6

5 2

12 4

0% 20% 40% 60% 80% 100%

類型大学数 回収数

総合・旧帝大 総合・旧官大(文・理)

総合・旧官大(医あり)

総合・新制大(医あり)

複合・新制大(医あり)

複合・新制大(医なし)

医科系・単科大 理工系・単科大 文科系・単科大 教育系・単科大 図2 大学類型別発送数(下段)と回収数(上段)

(5)

4.センターの設置と運用

(1)研究施設設置数の変化

文教協会発行の『全国大学一覧』を用いて法人化前後の設置数を集計すると表1のような結果が 得られた。百分率で示した値は大学類型の中での研究施設類型のシェアを示しており、括弧内に 2003年は設置数を、2011年は2003年からの設置数の増減を示している。2011年の集計では、法令に よる規定の廃止によって施設の類型は失われているが、便宜的に学部等附属教育研究施設と共同利 用・共同研究拠点以外の施設数を学内共同教育研究施設として数え上げることで値を導出した。

総合大学や複合大学では、学部等附属研究施設と学内共同教育研究拠点の双方が増加している が、単科大学などで学部等附属教育研究施設が減少し、学内共同教育研究施設が増加している。学 部等附属教育研究施設を減少させた大学は、それらを全学組織として位置づけることにより、資源 の融通を容易にするなどの意図がある可能性があり、逆に増加させた大学は、外部資金の獲得等に よって部局のいわば「別働隊」として新設したと仮説的に考えることができるが、今後、事例に基 づく詳細な調査が必要である。

表1 大学類型別研究施設類型の法人化前後比較

2003年 2011年

学 部 等 附 属

教育研究施設 学 内 共 同

教育研究施設 全 国 共 同

利 用 施 設 学 部 等 附 属

教育研究施設 学 内 共 同

教育研究施設 共 同 利 用・

共同研究拠点 総合・旧帝大 43.9% [69] 47.1% [74] 8.9% [14] 49.6% (43) 43.8% (25) 6.6% ( 1)

総合・旧官大

( 文・ 理 ) 24.5% [12] 71.4% [35] 4.1% [ 2] 23.9% ( 5) 73.2% (17) 2.8% ( 0)

総合・旧官大

( 医 あ り ) 28.4% [23] 66.7% [54] 4.9% [ 4] 29.4% (19) 68.5% (44) 2.1% (-1)

総合・新制大

( 医 あ り ) 30.9% [25] 66.7% [54] 2.5% [ 2] 24.1% ( 7) 74.4% (45) 1.5% ( 0)

複合・新制大

( 医 あ り ) 32.8% [22] 56.7% [38] 10.4% [ 7] 43.0% (24) 56.1% (22) 0.9% (-6)

複合・新制大

( 医 な し ) 27.7% [23] 71.1% [59] 1.2% [ 1] 16.6% ( 2) 83.4% (67) 0.0% (-1)

医 科 系・

単 科 大 学 33.3% [ 6] 61.1% [11] 5.6% [ 1] 0.0% (-6) 97.1% (22) 2.9% ( 0)

理 工 系・

単 科 大 学 11.1% [10] 87.8% [79] 1.1% [ 1] 4.5% (-2) 94.9% (89) 0.6% ( 0)

文 科 系・

単 科 大 学 17.4% [ 4] 82.6% [19] 0.0% [ 0] 10.7% (-1) 89.3% ( 6) 0.0%( 0)

教 育 系・

単 科 大 学 42.9%[21] 51.0%[25] 6.1%[ 3] 10.6%(-12) 89.4%(51) 0.0%(-3)

(6)

類型ごとのセンター設置数の平均は以下の図3の通りとなり、どの類型も一様にセンターを増加 させていることを読み取れる。図4によれば、その伸び率の平均は1.20倍~1.93倍であるが、医学部 を持たない複合・新制大や理工系単科大学は値の分布範囲が大きい。大学単位の集計では、セン ターを減少させている大学がある一方で、3倍以上に増加させている大学もあることから、セン ターの各大学での位置付けが多様化していることが示唆される。

(2)センター設置に対する意識

以下の節では、筆者の行ったアンケートに基づいて分析する。まず、複数回答にて今後教育研究 を進めるうえでふさわしいと考えられる形態について尋ねたところ、「特定の目的や研究課題のた めに編成される、タスクフォース的な組織形態(学際的な研究を進めるセンター等)」に関する回答

38.0 25.0

14.2 11.7 9.6 7.6

5.0 6.7

5.0 4.1 52.4

36.0 24.7

19.1 15.7 13.8

9.0 12.9

6.0 7.1 0

10 20 30 40 50 60

総合・旧帝大 総合・旧官大(文・理) 総合・旧官大(医あ 総合・新制大(医あ 複合・新制大(医あ 複合・新制大(医なし 医科系・単科大学 理工系・単科大学 文科系・単科大学 教育系・単科大学

類型平均2003 類型平均2011

図3 類型別センター設置数平均の法人化前後比較

1.38 1.44 1.74 1.63 1.64 1.81 1.80 1.93

1.20 1.73 0.000.50

1.001.50 2.002.50 3.003.50 4.004.50

総合・旧帝大 総合・旧官大(文・理) 総合・旧官大(医あり) 総合・新制大(医あり) 複合・新制大(医あり) 複合・新制大(医なし) 医科系・単科大学 理工系・単科大学 文科系・単科大学 教育系・単科大学

図4 類型別センター設置数の伸び率の分布

(7)

が相対的に多い回答を集めた。研究センターは「教育組織と教員組織を分離して編成する形態(筑 波大学の学系及び学群等)」や「学位を与える過程(プログラム)に基づいて編成する形態」と並ん で重視されていると考えられる。

(3)センターの設置計画

学長がセンターを重視する姿勢は、実際にセンターの新設を第二期中期目標・中期計画に盛り込 んだ大学が調査回答大学の36%に上る点に表れている。中期目標・中期計画に盛り込まれていない が準備を進めたり、設置を実現した大学も存在している。

(4)任期制の導入

センターの教員に対して任期制を導入する大学は、「導入の予定なし」としている回答も一部存在 しているものの、全面採用・一部採用をあわせると71%に及んでいる。センターに新規に雇用され

0 1 2 3 4 5 6 7 8

問1将来①分離 ②学部・学科 ③学位プログラム ④タスクフォース ⑤大講座 ⑥小講座 ⑦部門

図5 将来の教育研究組織としてふさわしい形態(複数回答)

盛り込まれていない 盛り込まれている

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

設置実現 準備中 具体的動きなし 準備中 予定なし 設置実現 過去の継続など

図6 第2期中期目標・中期計画におけるセンター設置計画の状況

(8)

る人材の多くに対して任期が付されるようになったと考えられる。

(5)活動の評価

学際的な研究を行うセンター等に対する評価がどのように行われているか、複数回答で尋ねたと ころ、学長または理事・副学長とする回答が多数を占める結果となった。このうち8事例は、学長 または理事・副学長以外の評価者を含まない回答であった。他大学の同一分野の研究者による評価 はわずか1件にとどまっている。これらのことから、全国的な視野というよりは、執行部の意向の もとで設置改廃が行われる現状があると考えられる。

(6)改組までの期間

法人化以後に廃止や改組を行った組織について、改廃の決定から実施に至るまでの期間を尋ねた ところ、1年未満とする回答が6割を占めた。学際的研究組織の設置に従来3年かかっていたもの を短期間に実現できるようになった(黒木 2009)という学長の体験談もあり、改組までの期間の加 速化を示唆している。しかし、案件の内容や学内手続のフローにより、改組の期間は異なると考え られるため、きめ細かな分析が必要である。

0 1 2 3 4 5 6 7 8

全面採用 一部の職階 一部の部門 今後予定している 予定なし

図7 任期制の導入状況(複数回答)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

学長 理事・副学長 学内異分野 センター運営委員 同一分野 他大教員

図8 センターの評価者

(9)

5.センターの廃止

(1)制度変更に伴う廃止の出現とアンケート回答にみる動向 法人化後、附属施設の人件費・運営経費相当額

は、算定ルールに基づき運営費交付金の中で措置さ れているが、独自の取り組みで新設したセンターに 対して新たな予算措置は行われない。運営費交付金 の減額や外部資金の不安定性から、各大学が外郭部 にあてる資源は不安定であり、既存のセンターを合 併・統合し、合理化を図る事例も出現している。時 限が付される場合があったとはいえ、これまで安定 的な資源を獲得してきた法人化前のセンターでは考 えにくかった継承組織なしでの組織廃止も現実のも のとなりつつある。

調査において得られたセンター廃止件数を、散布 図として表したのが図10である。なお、同じ値の大 学が複数存在した場合、散布図上では1つの点とし て示されている。これらの事例について複数回答で 廃止後の教員の処遇を尋ねた結果を図11に示す。得 られた回答のほぼすべてが学内での配置転換で済ん でいるが、公募等により学外へ転任している事例も あった。

この中で比較的多くの廃止事例を回答した

A・B

両大学について、訪問調査により組織改編に関する 経緯を調査した。これとは別に、組織の再編に向け

0 1 2 3 4 5 6 7 8

2年以上 1~2年 6か月~1年 3~6か月

図9 改組・廃止決定から実施までの期間

1 3 9 27

0 1 2 3

A大学

B大学

0 1 2 3 4 5 6

配置転換 公募 前職復帰 図10 ‌‌センターの設置数(縦軸)と

廃止数(横軸)

図11 廃止センターの教員の処遇

(10)

た取り組みを行っている

C

大学からも情報を得ることができたため、各事例について記述の上、考 察することとしたい。

(2)特徴的な廃止事例 1.A大学

A

大学では、学長の強い推進姿勢のもと、法人化で拡大した予算・組織編制上の裁量を活用して 2005年に25名の教員を雇用し、5年時限で5つのセンターを立ち上げた。しかし、その後の環境変 化により、部局に配分する教員人事ポイントの不足を招く結果となり、人事面で悪影響がもたらさ れることとなった。2008年、執行部の交代を前に、学内の部局代表者などで構成する委員により外 部資金獲得額や活動状況の評価を行い、時限到来後の2センターの廃止と3センターへの定員措置 の縮小を決定した。学内外から廃止に対する批判が寄せられたが、2011年に予定通り実施された。

教員は学外の公募等に応募して転出した。2010年には独自の組織見直し制度を導入し、学部・大学 院等の組織を含むすべての組織に対して5年単位の評価と見直しを課している。2011年には、学内 評価の結果に基づいて旧省令施設の組織縮小を実行した。一方で、教員表彰と連動してアクティビ ティの高い教員が自己の裁量でセンターを設置できる制度が存在し、センターと称する組織の数は 飛躍的に増加している。

2.B大学

学長の発案によりセンターの立ち上げが決定され、2004年の法人化に際して行われた記念式典で のスピーチで発表された(小島 2005)。特色となる分野に新設された2つのセンターに対し、教員 2名分の雇用とプロジェクト遂行にかかわる研究費の一部を支援した。同時期に、教員人事へのポ イント制の導入、事務局長ポストの廃止などの改革を行い、学長を中心としたマネジメント体制を 強化した。センターの活動状況のモニタリングは、連絡会を2か月に1回程度開催し、学術研究担 当理事のもとで行われた。その後、執行部の交代を経て、2010年にはセンターが獲得していた外部 資金の残存期間が1年を切った。このことから資金終了後の存続の可否や組織体制について連絡会 での検討が開始され、約5か月間をかけてセンターの活動終了についての合意形成を図った。セン ターは廃止となったが、教員は配置転換により学内にとどまった。

3.C大学

学内に多数の附置研究所・センターをもつ大学である。法人化以後、組織新設事例は存在するが、

組織の無秩序な増加を防ぐ観点から、センターの設置改廃すべてを全学の企画会議の審議事項とし て抑制してきた。2011年に「10年後の

C

大学の発展を支える教育研究組織改革に向けて」と題する 基本方針が役員会にて策定され、「強い教育研究組織を確立」するため、数値に基づく組織評価に基 づいた組織再編が実施されることとなった。センターは「時代の要請に応じて学内措置として設置 されている学内共同利用施設、研究科及び研究所の附属施設については、一定の役割を果たしたと

(11)

判断できるものは、研究科および研究所との統廃合の可能性等の検証を行い、必要な組織再編を行 う」とされ、組織の統合に向けた方向性が示されている。

4.事例の考察

A

大学、B大学とも、トップダウンが比較的強い土壌があり、センターへの投資もトップダウン で決定された面が大きい。組織廃止の実施に向けた動きは各大学で異なっている。A大学では評価 委員の投票により短時間で廃止を決定したが、B大学では5か月をかけて合意形成を図った。C大 学では組織の再編を基本方針に盛り込んだうえで評価や検討作業に取り掛かろうとしている。A大 学、B大学では外部資金が組織の評価や存続に大きな影響をもたらしていた。運営資金の枯渇はセ ンターの廃止に直結するものであると同時に、組織に対する客観的な評価指標として、関係者の説 得材料ともなる。C大学においても、数値に基づく組織評価により客観的データを示しながらの組 織再編が予定されている。

A・B

両大学にて、設置時の学長と廃止時の学長が異なっており、執行部の交替も廃止に影響を 及ぼしていることが示唆される。また、廃止決定時の時限の残存期間、廃止後の教員の処遇なども 廃止の決定過程に影響を与えると考えられ、さらなる事例の蓄積が必要である。

6.結 論

以上、本稿では部局等を超えて学際的な研究を進めるセンターがいかなる変化の途上にあるのか をデータをもとに考察した。研究センターの設置に対する期待は大きく、法人化後も引き続き設置 数が拡大している。特に全学的な位置づけを持つ研究施設が増加しており、件数としては総合・複 合大学が多いが、単科大学でも目立った動きとなっている。これらのセンターでは、教員の雇用に は任期制が採用されることが多く、執行部の強い影響力のもとで、比較的短期間のうちに改組が行 われる。本研究では、これら多様化、流動化しようとしているセンターの実態を実際の数値に基づ いて明らかにすることができた。

また、近年新たな現象として生じ始めた組織の廃止について、既に複数の事例を持つ2大学と、

これから再編を進める予定の1大学の事例をもとに、外部資金の獲得がセンターの継続の成否に影 響を及ぼしている現状を明らかにした。機動性・流動性に意味をもつセンターではあるが、分野に よる資金の多寡や資金提供元の方針転換に対応できない組織であっては分野間・部局間の格差を広 げるばかりの結果となりかねない。この観点から、今後はこれらのセンターが研究成果の産出や予 算の獲得にいかなる影響を与えているか、さらにはセンターを支える資源の変化とそれに伴う組織 改編の関係性について明らかにする必要がある。また、附置研究所をはじめとする学内他部局も含 めた、大学における研究体制の在り方とそれを支える資源配分の方法についても検討する必要があ るだろう。

(12)

参考・引用文献

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〈追記〉本研究は

JSPS

科研費「大学法人化を契機とした組織変容の動態分析

研究センターの設 置と廃止を中心に

」(課題番号:25・7179)の助成を受けたものである。

  また、本論文は『九州地区国立大学教育系・文系研究論文集』編集委員会の査読により修正し掲 載されるものである。

参照

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